めっきの違うコネクタを組み合わせるとどうなる?- MIL-STD-889Dに基づく解説

1.はじめに

コネクタの表面めっきは、耐食性や導電性を左右する重要な要素です。では、異なるめっき同士を組み合わせるとどうなるのでしょうか?例えば、D38999/26WE35PN(OD色カドミウムめっき)とD38999/20FE35SN(無電解ニッケルめっき)の組み合わせが典型例です。めっき仕様が異なると、嵌合の互換性そのものは変わりませんが、耐食性・外観の経年変化という観点で注意が必要になります。特に、ガルバニック腐食のリスクが絡みます。

2.MIL-STD-889D によるガルバニック相性評価

米国防省規格 MIL-STD-889D では、各導電性材料の組合せについて、人工海水中 1:1 面積比条件下でのガルバニック腐食速度を数値化した Galvanic Compatibility Table が示されています。
この中から、Table II(表面処理材のガルバニック適合表)を引用します。

Table II(表面処理材のガルバニック適合表)

表中の数値は、「腐食速度(mil/year)」を示し、1〜6 の区分で評価されます。数値が小さいほど腐食しにくく、大きいほど腐食リスクが高いことを意味します。

区分 腐食速度 (mil/year) 説明
1 0.01 – 0.09 優良
2 0.1 – 0.9 良好
3 1 – 4.99 中程度
4 5 – 9.99 注意必要
5 10 – 99.99 非常に不良/高リスク
6 > 100 極めて危険な組合せ

例えば、Table IIの i. Cadmium w CCn. Electroless Ni の組合せは “4” と評価され、人工海水環境下では 5~9.99 mil/year の腐食速度と予測されます。

3. 実例解説:D38999/26WE35PN × D38999/20FE35SN

OD色カドミウムめっきと無電解ニッケルめっきの嵌合は TABLE IIの関係により評価 ”4”(注意必要) に該当します。すなわち、海水や潮風などの湿潤・塩分環境下では、カドミウムめっき側が腐食する可能性が高いと解釈できます。ただし、これは 人工海水条件での加速度評価値 であり、乾燥環境・短期使用ではこのような速さでは劣化しません。

4. 使用環境別リスクと対策

環境/条件 リスクの度合い 推奨対策
屋内・乾燥環境(短期使用) 低〜中 問題発生例は少ないが、軽度防錆措置を推奨
高湿度・結露環境 定期点検、水洗浄、乾燥保管
海塩環境・潮風曝露 同一めっき仕様化、シーラント/絶縁膜、薄膜防錆剤
長期放置期間 中〜高 嵌合保持、嵌合保護カバー、表面保護膜維持
  • 嵌合面や導通部には、非絶縁薄膜防錆剤を極薄に塗布
  • 濡れたら真水洗浄 → 乾燥
  • 嵌合保持状態では濡れの侵入を抑える
  • 定期点検・メンテナンスを実施

5. 結論と注意事項

  • 異なるめっき仕様の嵌合は、電位差を背景とするガルバニック腐食リスクを内包します。
  • D38999/26WE35PN(OD色カドミウム) × D38999/20FE35SN(無電解ニッケル) は、MIL-STD-889D TABLE IIで “4(注意必要)” に該当する組合せと見做すことが妥当です。
  • ただし、試験条件(人工海水・1:1 面積比)での評価であり、実使用環境では腐食速度は抑制されることが多いです。
  • 使用環境に応じて適切な防錆措置と保守設計を併用してください。

以上