光ファイバが切り拓く第6世代戦闘機の未来
― 次世代制空戦闘機に求められる超高速・高信頼インターコネクトソリューション ―
戦闘機はこれまで数十年にわたり、銅線と光ファイバを併用してきました。しかし、第6世代航空機に求められる性能は、これまで以上に光ファイバの重要性を高めています。
F-47が示す第6世代戦闘機の方向性
ボーイング社の第6世代戦闘機F-47は、2025年3月にコンセプトが初めて公に示されました。その詳細は依然として機密のベールに包まれていますが、米空軍の次期制空戦闘機が、今後数十年にわたって空を支配するための高度な技術群を搭載していることは明らかです。
F-47は21世紀における戦闘機技術の新たな基準を打ち立てると期待されています。しかし、F-47や、B-21レイダー爆撃機、そしてフランス・スペイン・ドイツ空軍が開発を進めている「Future Combat Air System(FCAS)」のような第6世代機が掲げる高性能目標を実現するには、従来の銅線では速度・重量・伝送量の限界を超えられない可能性があります。
こうした新世代航空技術を実現するには、高速で安全、かつ電磁干渉の影響を受けないデータおよび信号伝送が不可欠であり、その鍵を握るのが光ファイバインターコネクトシステムです。
次世代制空プログラム「NGAD」とF-47の位置づけ
F-47は、米空軍が推進する「Next Generation Air Dominance(NGAD)」プログラムにおける有人機の中心的存在として位置づけられています。NGADは、第5世代戦闘機 F-22 Raptor(ラプター)の後継機となる新しい制空戦闘機群を構築し、空・宇宙・サイバー空間を含む統合システムの中核を担うことを目的としています。
その詳細は依然として極秘とされており、ボーイング社や国防総省以外の者がF-47の具体的な性能を知ることはありません。しかし、概ねの構想はすでに明らかになっています。
第5世代戦闘機が当面の間主力であり続ける一方で、NGADは既存技術の老朽化や新たな能力の登場を見据え、今世紀を通じて「紛争空域」での制空権を維持する役割を担っています。NGADでは、およそ200機の有人戦闘機を中核とし、さらに1,000機以上の高自律型無人機「Collaborative Combat Aircraft(CCA)」が有人機を支援します。これらの機体は、宇宙ベースの監視装置、先進電子戦(EW)システム、安全な指揮・管制ネットワークなどと連携し、センサー情報を融合してリアルタイムで戦況全体を把握します。
これらの戦力要素は、空・宇宙・サイバーといった複数の領域を横断して接続され、センサーフュージョン(情報統合)によって、パイロットに作戦環境の全体像をリアルタイムで提示します。F-22やF-35戦闘機もすでに高度なセンサーフュージョン機能を備えていますが、F-47はそれをさらに発展させ、協働戦闘機(CCA)や衛星、地上センサーなどの外部システムとのより広範な統合、そしてAIによる意思決定支援など、複数の分野で能力向上が図られる見込みです。
F-47機自体は、機載AI、適応型ミッションシステム、高度な兵装プラットフォーム、リアルタイムの脅威応答能力など、多様な先進システムを搭載する可能性が高いと見られています。マッハ2を超える速度で飛行できるという噂もあります。F-47の基盤となるシステムアーキテクチャは、コスト削減や保守性の向上、調達期間短縮、開発サイクルの短縮を目的として、モジュラー・オープン・システムズ・アプローチ(MOSA)を強く重視して設計されることが期待されています。
これらの能力を実現するには、複数のドメインからの目標情報を融合したり、電子対抗手段(ECM)を管理したり、無人機のウィングマンと協調したりするために、大量のデータをリアルタイムで処理することが不可欠です。
ステルスが第5世代機を定義したように、第6世代は「データ」によって定義されるでしょう。脅威の識別から兵器の発射判断に至るまで、時機を逃さず時間敏感なデータを処理・行動に移せるかどうかが勝敗を左右する可能性があります。
こうした要求に応えるため、現代の戦闘機で一般的に使用されている従来型の銅線と光ファイバーの組合せだけでは単独で十分でないと考えられます。次世代機では、機体全体にわたり、軽量で高帯域幅、干渉耐性に優れた光ファイバーによるインターコネクトがより広範に組み込まれる必要があるでしょう。
光ファイバが支える第6世代機のアーキテクチャ
第6世代戦闘機、特にF-47やB-21では、従来のF-22やF-35といった第5世代機よりも、光ファイバの果たす役割が格段に大きくなると予想されています。第5世代の機体にも一部光ファイバが導入されていますが、依然として電源供給や信号伝達など、多くのレガシーシステムには銅線が使用されています。
センサー密度の高い設計、AIによる意思決定支援、そして自律システムとのリアルタイム連携といった要素を備える第6世代戦闘機では、機体内外でやり取りされるデータ量が膨大になり、従来の銅線ケーブルでは処理・転送・対応が追いつかないと考えられています。光ファイバはこの要求に極めて適しており、電磁妨害(EMI)や高周波干渉(RFI)への耐性を備える点でも、レーダーや電子戦(EW)活動が激しい「contested airspace(紛争空域)」で大きな強みを発揮します。
また、光ファイバのサイズ・重量・消費電力(SWaP)の優位性も重要です。軽量かつコンパクトで、大容量データの伝送が可能な光ファイバは、スペースに制約があり、より高密度化が進む次世代機のシステムアーキテクチャに最適です。さらに、リアルタイムの脅威評価、目標優先度の判定、自律的な意思決定といったミッションクリティカルな機能を支える超低遅延通信を実現できる点も大きな特長です。
加えて、第6世代システムはMOSA(Modular Open Systems Approach)を重視して開発されることが想定されており、光ファイバはその柔軟性にも貢献します。単一のファイバで銅線よりも多く、かつ高速にデータを伝送できるため、モジュールのアップグレードやペイロードの交換を迅速に行うことが可能です。たとえば、より高いスループットを必要とするセンサーやプロセッサを追加する際にも、光ファイバ基盤であればボトルネックになりにくいのです。一方、銅線ではデータ転送速度を上げるために、ケーブルの太径化や新たなシールド構造が必要となるケースが多く見られます。
AIがもたらす新たな戦闘機能
AIは、第6世代戦闘機においてパイロットの能力と運用体験を大きく拡張することが期待されています。機載AIは、脅威の情報を自動で取捨選択・優先順位付けし、行動方針を提案するほか、パイロットの承認のもとで交戦を開始する可能性もあるといわれています。
人工知能を軍用機、特に戦闘機や戦略爆撃機のシステムアーキテクチャ全体に本格的に統合することは、航空史における最大級のブレークスルーのひとつになるかもしれません。
さらに、F-47と連携して飛行するAI制御の無人協働戦闘機(CCA)部隊の構築も、極めて野心的な目標です。アメリカ空軍は2024年、AIを搭載した改修型X-62 VISTA F-16を用いた自律飛行試験に成功しており、この実験でAI戦闘機編隊の実現可能性を実証しました(なお、テスト時には安全監視のためにパイロットが搭乗しており、兵器の使用を伴う際には常に人間のオペレーターが関与する方針が示されています)。
このような強力なAIソフトウェアを、第6世代機の限られた機体構造とアビオニクスシステムに収めることは容易ではありません。AIがその機能を安全かつ確実に、そしてリアルタイムで実行するためには、プロセッサ、センサー、通信システム間で膨大なデータを迅速かつ安定してやり取りできる包括的な光ファイバーシステムが不可欠です。それにより、重量や構造的負担を増やすことなく、また電磁的な脆弱性を生じさせることなく、パイロットの安全性と生存性を最優先にしたAI運用が実現されます。
フライ・バイ・ライト(FBL)技術とは
「フライ・バイ・ライト(Fly-by-Light:FBL)」は、「フライ・バイ・ワイヤ(Fly-by-Wire:FBW)」の発展形であり、「フライ・バイ・オプティクス(Fly-by-Optics:FBO)」と呼ばれることもあります。基本的なアーキテクチャはFBWとほぼ同じですが、銅線を光ファイバーに置き換え、電気信号の代わりに光パルスとして操縦指令を伝達します。FBLは、より高速かつ軽量で、電磁干渉(EMI)に強いシステムです。
日本の海上自衛隊が運用する川崎P-1哨戒機は、2013年の就役時に世界で初めてFBLシステムを実用化した量産機として知られています。
FBWは、1970年代にF-16が世界初の全デジタルFBWシステムを採用して以来、軍用・民間航空機双方で事実上の標準制御方式となっています。FBWシステムは、操縦席での操舵操作を電気信号として解釈し、銅線を通じてフライトコンピュータに送信します。コンピュータは入力を解析し、各アクチュエータに対応する指令を送る仕組みです。これは、従来の機械式および油圧機械式制御を置き換えた画期的な技術革新でした。
しかし、次世代プラットフォームではデータ転送速度、制御精度、電磁環境の複雑性が飛躍的に高まっており、従来の銅線ベースのFBWシステムでは対応しきれない可能性が指摘されています。
このため、第6世代機ではFBLシステムの採用が有力視されています。従来の戦闘機を上回る多数のセンサー、高度な機載処理能力、そして電磁的にノイズの多い環境下において、FBLはEMIの影響を受けない制御アーキテクチャを提供し、銅線の重量負担を増やすことなく、高速かつ低遅延の信号伝送を実現します。F-47のような次世代戦闘機が、より高度に統合されたアビオニクス、高い自律性、精密なフライトコントロールを追求する中で、光ファイバを基盤とするFBLシステムは、これらの性能を支える高い信号品質と柔軟な伝送構成を実現する重要な要素となるでしょう。
アンフェノールの堅牢な光ファイバソリューション
第6世代戦闘機の開発は、すでに世界各国で進められています。
アンフェノールの光ファイバ製品群は、過酷な環境下で実証された高い信頼性と、高速・高密度・耐EMI性能により、次世代航空機に求められる厳しい要件を満たします。
光コネクタから光コンタクト、アセンブリに至るまで、アンフェノールはアビオニクス、フライトコントロール、AI、通信、センシングなど、航空プラットフォーム全体を支える包括的な光ファイバ・インターコネクトソリューションを提供しています。