現代のドローン脅威への対処が抱えるコストのジレンマ
-低コストで量産されるドローンが、現代の防空におけるコスト格差を拡大-
防空コストの課題とC-UASの必要性
2019年に米陸軍が実施したパトリオット・ミサイルの発射試験。近年、中東での戦闘において、米国および湾岸諸国の同盟国は、イランの片道攻撃型ドローン「シャヘド」を撃墜するため、パトリオット・ミサイルを広範に使用しています。
ドローン技術の成熟に伴い、地域内の標的を攻撃する能力と、それに対処する従来型防空システムとの力関係は大きく変化しました。この変化は、大規模なドローンスウォームに十分対処するため、従来型の防空システムよりも低コストかつ効率的にドローンへ対処できるC-UAS(対無人航空機システム)の必要性が急速に高まっていることを示しています。
専用のC-UASシステムがなければ、低コストの攻撃用ドローンを大規模なスウォームとして運用する側が、深刻な脅威となります。物量だけで一部のドローンが従来の防空網を突破する可能性があるうえ、防御側は貴重な防空装備品の備蓄を消耗させられることになります。
FPVドローンや徘徊型弾薬/片道攻撃型ドローン(いわゆる自爆ドローンまたはカミカゼドローン)などの攻撃型ドローン技術は、過去5年間に世界各地で発生した紛争において、短・中距離の標的に対する攻撃で大きな効果を示してきました。「貧者の巡航ミサイル」とも呼ばれ、しばしばスウォームとして投入されるこれらの兵器は、一般的な防衛装備と比較して、わずかなコストで製造し、配備・投入できます。
一方、これらへの対処を担ってきた従来型の防空システムは、高い効果を発揮するものの、桁違いに高価です。また、保有数も限られ、製造や配備にもはるかに長い時間を要します。この不均衡は、ロシアによるウクライナ侵攻後に顕在化し、最近では「エピック・フューリー作戦」における対イラン作戦を通じて、中東でも特に深刻な問題として浮き彫りになりました。
C-UASシステムが新たに不可欠となる理由
イランの徘徊型ドローン「シャヘド」のイメージ。
イランは、「シャヘド」と呼ばれる国産の無人戦闘航空機(UCAV)および徘徊型弾薬ドローンの製品群を保有しています。なかでも、プッシャー式プロペラを採用した自律型徘徊飛行モデルの「シャヘド136」は、1機当たり約5万ドルで、短期間に大量生産できます。ロシアも2023年以降、シャヘドのライセンス生産型を「ゲラン2」の名称で製造し、ウクライナに対して大量に投入しています。2026年2月下旬に戦闘が始まって以降、イランは湾岸地域にある米国の拠点や近隣諸国に対し、シャヘドを継続的かつ大量に投入しています。これまで米国と湾岸諸国の同盟国は、主に米国製の地対空ミサイル(SAM)システムをはじめとする各種の従来型防空システムを使用し、シャヘドに対して大きな迎撃効果を上げています。
これらのシステムは高い効果を発揮する一方、例えば米国のパトリオットPAC-3 MSEミサイルは、1発の製造に400万~500万ドルを要します。また、迎撃対象となるドローンと比べ、製造にもはるかに長い期間が必要です。最近の報道によると、2026年3月上旬の「エピック・フューリー作戦」では、わずか3日間の防空作戦で800発を超えるパトリオット・ミサイルが発射されたとされています。別の推計では、イランがシャヘドの製造に1ドルを費やすごとに、アラブ首長国連邦(UAE)はその撃墜に最大28ドルを費やしたとされています。UAEは、サウジアラビア、カタール、バーレーン、クウェート、オマーンとともに、イランからドローンや弾道ミサイルによる攻撃を受けた湾岸6か国の一つです。
イランは、これまでの戦闘で数千機のシャヘドを投入しており、その大部分が迎撃されています。これは、本来であれば、より高度な標的を撃破するために設計された従来型防空システムが、作戦地域において高い能力を発揮していることの証しでもあります。しかし、時間の経過とともに、対処のペースを維持するため、高性能な防空装備の備蓄はさらに消耗し、サプライチェーンへの負担も増大していくことが避けられません
高価な迎撃ミサイルを投入したり、戦闘機などの高度なプラットフォームを使用したりすることは、速度が遅く、特徴的な外形を持ち、レーダー反射を低減する機能も備えていない単純なシャヘドを無力化するうえで、間違いなく有効です。しかし、長期的に持続可能な戦略とはいえません。このため、1回の対処に不釣り合いなコストをかけることなく、規模を拡張でき、繰り返し運用可能なドローン防御を実現する、新規および既存のC-UASアーキテクチャの開発・配備が一層重視されています。
対ドローン防衛のコスト課題に対応する
2025年後半、ピックアップトラックの荷台に搭載された対ドローンシステム「Merops」の準備を行うポーランド兵。
従来型の地対空ミサイル(SAM)システムは、弾道ミサイル、巡航ミサイル、航空機への対処に引き続き不可欠です。一方、最近の出来事から、高性能な迎撃ミサイルは、本来想定された標的に使用できるよう温存する必要があることが明らかになっています。
専用のC-UASシステムは数年前から開発が進められてきましたが、ウクライナで得られた教訓や中東情勢の進展を受け、米国とその同盟国は、大量の低コストドローンに対処できる多層型C-UASアーキテクチャの開発・配備を一層重視しています。これには、電子戦能力の拡充、移動式短距離防空(SHORAD)プラットフォーム、高エネルギーレーザー(HEL)や高出力マイクロ波(HPM)システムなどの指向性エネルギー兵器(DEW)技術への投資拡大が含まれます。
早期の実戦投入が見込まれるシステムの一つが、米国の「Merops」です。Meropsは、ピックアップトラックの荷台に搭載して運用できるほど小型の対ドローンプラットフォームで、ドローンの脅威に対し、迎撃ドローンを飛翔体として発射します。この迎撃ドローンは「Surveyor」と呼ばれるプロペラ推進式の機体で、オペレーターによる操作に加え、AI、各種RFセンサー、レーダーセンサーを使用して、自律的に標的を追尾できます。
ウクライナでの運用では、開戦以降、約1,900機のロシア軍ドローンを撃墜し、その有効性を実証しています。これを受け、米国は中東でのMeropsの配備開始を計画しています。米国製地対空ミサイルと比較すると、MeropsのSurveyor迎撃ドローンは、1機当たり約1万5,000ドルにすぎません。
低コスト攻撃システムでコスト格差を縮小
2025年後半、インディペンデンス級沿海域戦闘艦「USSサンタバーバラ」の甲板から発射される、低コスト無人戦闘攻撃システム(LUCAS)。
米国の防衛産業では、低コストのドローン技術への関心がますます高まっています。その対象は防御用途だけに限られません。米国は、独自の低コスト攻撃型ドローンの開発・実戦配備にも成功しています。
米国の防衛産業基盤としては異例の取り組みとして、技術者は鹵獲したシャヘド136をリバースエンジニアリングし、米軍向けの新たな低コスト片道攻撃型ドローンを開発しました。このシステムは「低コスト無人戦闘攻撃システム(Low-Cost Uncrewed[Unmanned]Combat Attack System)」、略称「LUCAS」と呼ばれています。
シャヘドを参考に開発されたLUCASには、複数の改良が施されています。重量は81.5kgとシャヘドよりも軽く、より高度な誘導・制御システムと機体搭載型AI機能を備えています。
米国は、対イラン戦争の勃発後、LUCASを実戦で使用し始めました。LUCASの価格は、1機当たり約3万5,000ドルです。
将来のドローン脅威を見据えた設計
C-UASの用途が拡大するなか、最も重要な傾向は、進化するドローンの脅威に対応するために必要となるシステムアーキテクチャが、急速に複雑化していることです。低コストのドローンスウォーム、周波数アジリティ、RFシグネチャの低減、自律行動などにより、探知・識別・対処に割ける時間は短縮されています。同時に、リアルタイムで伝送・処理し、対応へ反映しなければならないデータ量も増加しています。
多くの場合、有効に機能するシステムと、その能力が損なわれたシステムとの差を決めるのは、レーダーやジャマーの公称性能よりも、システム内部における意思決定ループの速度と信頼性です。
この変化により、システムの基盤部分にも新たな負荷がかかっています。レーダー、RF、電気光学/赤外線(EO/IR)、指揮統制機能を多層型アーキテクチャに統合するプラットフォームには、それ自体が作り出す高密度な電磁環境のなかで、一定の遅延特性を維持しながら、大容量データを伝送する能力が求められます。
信号品質とEMI制御は、センサーからの入力情報を利用可能な状態に維持できるか、高い処理負荷の下でも安定して演算できるか、また、システム自体の干渉を受けずに無力化手段を機能させられるかを直接左右します。
同時に、特に高出力の電子戦(EW)送信系統や指向性エネルギーシステムでは電力密度が上昇しています。そのため、設計者は、電力分配、接地、熱設計上の余裕を、単なる実装上の要素ではなく、システム性能を左右する主要な要件として扱わなければなりません。
言い換えれば、対ドローンシステムの有効性は、センサーや無力化手段そのものと同じ程度に、システムアーキテクチャと信号品質に左右されます。モジュール化され、アップグレードが可能で、高速データ伝送とEMI耐性を考慮して設計されたシステムほど、進化する脅威に適応しやすくなります。ここで重要になるのが、システムを支えるインターコネクト構成です。
帯域幅、シールド性能、大電力への対応を支えるインターコネクトの選択は、C-UAS能力をどこまで拡張できるか、どの程度の信頼性で運用できるか、そして脅威の次なる変化に応じてどれだけ迅速に更新できるかを、ますます大きく左右するようになっています。
低コストのドローン技術が世界各地の紛争で繰り返しその有効性を示すなか、効果的かつ費用対効果に優れたC-UASシステムの重要性は、日を追うごとに明確になっています。
低コストのドローンに対し、高価で高度な防空システムだけで対処すれば、財政面とサプライチェーンの双方に大きな負担が生じます。このことからも、専用C-UASプラットフォームの必要性は、これまで以上に明らかです。
C-UASを支えるアンフェノールのインターコネクト技術
C-UASプラットフォームのインターコネクト課題に対応
C-UASシステムが、コストの不均衡や継続的に投入される大量のドローンに対応するために拡張されるにつれ、それを支えるアーキテクチャは、センサーや無力化手段そのものと同じくらい重要になります。
多層型の対ドローンシステムには、高速データを確実に伝送し、増大する電力負荷に対応するとともに、高密度な電磁環境下でもシールド性能を維持することが求められます。
大規模なドローンスウォームに対してシステムを連続運用する場合、信号品質、適切な接地設計、コネクタの信頼性が、システム性能と継続運用能力を直接左右します。
アンフェノールは、過酷な環境向けに設計された幅広いインターコネクト製品により、次世代C-UASアーキテクチャを支えます。
VITA規格対応インターコネクトシステムは、大容量データをリアルタイムで処理できる、モジュール式ミッションコンピューティングおよびセンサーフュージョンプラットフォームを実現します。OctonetやQuadraxなどの高速伝送用コンタクトソリューションは、RF機器が高密度に配置された筐体内で、インピーダンス制御されたデータ伝送に対応します。
多芯のCF38999光ファイバコネクタ、MTフェルールを採用したMT38999は、分散配置されたセンサーと指揮通信ネットワークに、EMIの影響を受けないデータリンクを提供します。また、高出力の電子戦システムや指向性エネルギープラットフォーム向けには、アンフェノールの大電力・高電圧インターコネクトソリューションが、シールド性能と機械的耐久性を維持しながら、増大する電力需要に対応します。
対ドローンシステムの大規模化が進むなか、持続的な運用を実現するには、1回の迎撃コストを下げるだけでなく、大量のドローンに性能を低下させることなく対処できるアーキテクチャが必要です。
インターコネクト層の性能は、システムをどの程度の信頼性で運用できるか、どれだけ迅速にアップグレードできるか、そしてドローン脅威の次なる変化にどれだけ効果的に適応できるかを、ますます大きく左右しています。また、これらのプラットフォームが、設計時に想定された低コストでの対処能力を持続的に発揮するうえでも重要な役割を果たします。
WaSPシリーズ
WaSPシリーズは、量産用途に適し、SWaP-C(サイズ・重量・電力・コスト)を最適化した、UASおよびC-UASシステム向けの超小型ソリューションです。
極めて軽量かつ薄型で、アルミニウムシェルを採用したプラグとレセプタクルの嵌合時の重量はわずか9g強です。WaSPは、動作電圧400V ACに対応し、周囲温度に応じて最大5AのDC電流を流すことができる25 AWGコンタクトを備えています。
WaSPは、IP67の防水・防塵性能、パッシベーション処理を施した場合の48時間の塩水噴霧耐性、-55~+85℃の動作温度範囲など、優れた耐環境性能を備えています。嵌合は、ジャムナットを使用しない1/4回転式のポリマー製ロックリングにより、迅速かつ容易に行えます。
UASおよびC-UAS技術では、低コストかつ短期間で製造可能なシステムアーキテクチャへの移行が急速に進んでいます。一方、過酷な環境で使用されるシステムに求められる堅牢性を確保するには、インターコネクトにも高い信頼性が不可欠です。WaSPは、こうしたニーズに応えるために設計されています。
本記事は、Amphenol Aerospaceが公開した英文記事を日本語に翻訳したものです。
[原文記事はこちら(英語)]
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